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日本の事業承継 最新統計まとめ|中小企業庁・帝国データバンク調査から読み解く

日本の事業承継に関する主要な統計データを整理。中小企業庁、帝国データバンク、東京商工リサーチ等の公開データから、経営者の高齢化・後継者不在・承継形態の変化を読み解きます。

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はじめに

事業承継は、日本の中小企業にとって最も切迫した経営課題のひとつです。経営者の高齢化が進む一方、後継者が見つからず廃業を余儀なくされる企業は少なくありません。

しかし、事業承継の議論は個別の体験談に基づいて語られがちで、全体像をデータで把握する機会は限られています。この記事では、事業承継に関する国内の主要な統計データ・調査を2026年時点で整理し、それぞれの出典・読み方・限界を解説します。

架空の数値は引用していません。具体的な数値や最新版は、各調査の原典をご確認ください。

事業承継の具体的な進め方は事業承継の進め方で、財務面の基礎知識は経営者のための財務分析入門で解説しています。


この記事で使う用語

| 用語 | 本記事での定義 | |------|-------------| | 事業承継 | 企業の経営権(株式・経営ノウハウ・取引先関係等)を現経営者から後継者に引き継ぐこと | | 親族内承継 | 経営者の子息・親族に経営を引き継ぐ承継形態 | | 親族外承継(内部昇格) | 社内の役員・従業員に経営を引き継ぐ承継形態 | | 第三者承継(M&A) | 社外の第三者に経営を引き継ぐ承継形態。M&Aを含む | | 後継者不在率 | 調査対象企業のうち、後継者が決まっていない企業の割合 |


1. 統計データを読むときの注意点

事業承継に関する統計を読む際、以下の3点に注意が必要です。

① 調査対象の違い

各調査機関によって、調査対象(企業規模・業種・地域)が異なります。帝国データバンクと東京商工リサーチでは、自社のデータベースに登録された企業が母集団であり、日本の全企業を代表するものではありません。

② 「後継者不在」の定義の揺れ

「後継者不在」の定義は調査によって異なります。「後継者が決まっていない」と「後継者候補はいるが正式に決定していない」は異なる状態ですが、同じ「不在」に分類されることがあります。

③ 経年比較は同一調査内で

異なる調査機関のデータを年度間で比較するのは適切ではありません。経年変化を見る際は、同一調査シリーズの推移を追うことが重要です。


2. 経営者の年齢に関するデータ

帝国データバンク「全国社長年齢分析」

帝国データバンクは毎年、自社のデータベースに基づく「全国社長年齢分析」を公表しています。社長の平均年齢、年齢分布、業種別・地域別の傾向が把握できる代表的なデータソースです。

近年の分析では、社長の平均年齢が上昇傾向にあることが継続的に報告されています。具体的な数値は最新版の原典をご確認ください。

東京商工リサーチ「全国社長の年齢調査」

東京商工リサーチも同様に、社長の年齢に関する調査を定期的に実施しています。帝国データバンクとは母集団が異なるため、数値には差異がありますが、経営者の高齢化という全体的なトレンドは共通しています。


3. 後継者不在に関するデータ

帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査」

帝国データバンクは毎年、全国企業の後継者不在率を調査・公表しています。事業承継の現状を最も直接的に示すデータのひとつです。

この調査で注目すべきポイントは以下の通りです。

| 指標 | 読み方 | |------|--------| | 全国平均の後継者不在率 | 全体像を把握する基本指標 | | 業種別の後継者不在率 | 自社の業種での状況を確認 | | 社長年齢別の不在率 | 年齢が高い層でも不在率が下がらない傾向に注目 | | 経年推移 | 数年スパンでのトレンド変化を確認 |

中小企業白書における後継者問題の分析

中小企業庁が毎年発行する「中小企業白書」でも、事業承継は常設テーマとして分析されています。帝国データバンクや東京商工リサーチのデータを引用しつつ、政策的な文脈で後継者問題を整理しています。


4. 承継形態の変化に関するデータ

親族内承継から第三者承継(M&A)へのシフト

複数の調査が共通して示しているのが、承継形態の変化です。かつては親族内承継が主流でしたが、近年は親族外承継(内部昇格)や第三者承継(M&A)の割合が増加しています。

帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査」では、就任経緯別の分析も行われており、承継形態の推移を確認できます。

中小企業のM&A件数の推移

中小企業のM&Aを仲介する「事業承継・引継ぎ支援センター」(中小企業基盤整備機構が運営)は、毎年度の相談件数・成約件数を公表しています。

民間のM&A仲介会社(日本M&Aセンター、ストライク、M&Aキャピタルパートナーズ等)の公表データからも、中小企業M&Aの市場規模の拡大傾向を確認できます。ただし、各社の数値は自社の取扱件数であり、市場全体の数値ではない点に注意が必要です。


5. 廃業・休業に関するデータ

東京商工リサーチ「休廃業・解散企業動向調査」

東京商工リサーチは毎年、休廃業・解散企業の動向調査を公表しています。後継者不在による廃業の実態を把握するうえで重要なデータソースです。

帝国データバンク「全国企業倒産集計」

帝国データバンクは月次・年次で倒産集計を公表しています。後継者難型の倒産件数の推移は、事業承継の遅れが実際の企業消滅につながっている実態を示すデータです。


6. 政府の事業承継支援策に関するデータ

中小企業庁「事業承継ガイドライン」

中小企業庁は「事業承継ガイドライン」(2022年3月改訂版)を公表しています。事業承継の進め方を体系的に整理した公的資料であり、事業承継のプロセスを「見える化」「磨き上げ」「実行」の3段階で整理しています。

事業承継税制の活用状況

事業承継税制(法人版・個人版)の適用件数は、国税庁の統計や中小企業庁の発表資料で確認できます。制度の活用状況は、実際の承継の進捗を測るひとつの指標になります。

事業承継・引継ぎ補助金

中小企業庁が実施する「事業承継・引継ぎ補助金」の申請件数・採択件数の推移は、経営者の承継に対する関心度を間接的に示すデータです。


7. データから読み取れる構造的傾向

複数の調査・資料を総合すると、以下のような構造的傾向が共通して確認できます。

経営者の高齢化は継続している

帝国データバンク・東京商工リサーチの社長年齢調査は、いずれも社長の平均年齢が上昇傾向にあることを示しています。団塊世代の大量退職が一巡した後も、次の世代交代が進んでいない構造が浮かび上がります。

後継者不在率は高水準で推移

後継者不在率は、近年の調査で若干の改善傾向が見られるものの、依然として高い水準にあります。特に、社長年齢が高い層でも後継者が決まっていない企業が一定数存在することが課題として指摘されています。

承継形態の多様化が進んでいる

親族内承継の割合が低下し、第三者承継(M&A)の割合が増加している傾向は、複数の調査で一致しています。中小企業のM&A市場の拡大は、事業承継・引継ぎ支援センターの成約件数増加からも確認できます。

後継者不在による廃業は経済的損失につながる

東京商工リサーチの調査では、廃業企業のなかに黒字企業が含まれていることが指摘されています。後継者不在による廃業は、雇用・技術・取引先ネットワークの喪失につながる経済的損失であり、個別企業の問題にとどまりません。


8. データの限界と今後の課題

事業承継に関する統計データには、以下のような限界があります。


まとめ

日本の事業承継は、経営者の高齢化・後継者不在・承継形態の多様化という3つの構造的変化のなかにあります。個別の体験談だけでなく、帝国データバンク・東京商工リサーチ・中小企業庁・事業承継支援センターなどの公的データを組み合わせて全体像を把握することが、適切な意思決定の第一歩です。

具体的な数値を引用する際は、必ず原典を確認し、調査年・対象・定義を併記してください。事業承継の具体的な進め方は事業承継の進め方で解説しています。


FAQ

日本の事業承継に関する最も基本的な統計は何ですか?

帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査」と「全国社長年齢分析」が、事業承継の現状を把握するうえで最も基本的な統計データです。いずれも毎年公表されており、経年推移を追うことができます。中小企業白書でもこれらのデータが引用・分析されています。

後継者不在率はどの程度ですか?

帝国データバンクの調査で毎年公表されています。年度によって変動しますが、全国平均で半数以上の企業が後継者不在とされる年も報告されています。業種別・地域別・社長年齢別で傾向が異なるため、自社の状況に近いセグメントのデータを確認することをおすすめします。具体的な数値は最新版の原典をご確認ください。

親族内承継は減っているのですか?

複数の調査が一致して、親族内承継の割合が低下傾向にあることを示しています。代わりに、親族外承継(内部昇格)や第三者承継(M&A)の割合が増加しています。この変化は、少子化による後継候補の減少、経営者の価値観の変化、M&A仲介市場の整備などが背景にあると分析されています。

中小企業のM&Aは増えているのですか?

事業承継・引継ぎ支援センター(中小企業基盤整備機構が運営)の年次報告によると、相談件数・成約件数はいずれも増加傾向にあります。民間のM&A仲介会社の公表データからも市場拡大の傾向が確認できます。ただし、M&Aの「成功」をどう定義するかは別の議論であり、件数の増加がそのまま「うまくいっている」ことを意味するわけではありません。

事業承継に使える公的支援制度は何がありますか?

主なものとして、事業承継税制(法人版・個人版)、事業承継・引継ぎ補助金、事業承継・引継ぎ支援センターの無料相談があります。これらの制度は中小企業庁のサイトで詳細が公開されています。制度は年度ごとに改廃があるため、最新の要件・申請期限を確認してください。

廃業企業のなかに黒字企業はどの程度含まれていますか?

東京商工リサーチの「休廃業・解散企業動向調査」によると、廃業企業のなかに黒字企業が相当数含まれていることが報告されています。後継者不在が黒字企業の廃業につながるケースは、雇用・技術・取引先ネットワークの喪失という観点から経済的損失が大きいと指摘されています。具体的な割合は最新版の原典をご確認ください。